唐木俊介のブログ

「 月別アーカイブ:2024年11月 」 一覧

ろくなもん【10】

2024/11/30   -none

  己斐の駅舎は倒壊していたが、燃えたような跡はなく、辺りを見回してもどこからも煙は上がっていなかった。建物はその多くが倒れ伏せてしまっていたが、それでも純が歩いてきた市内中心部に比べると被 ...

ろくなもん【9】

2024/11/24   -none

  純の家も、最勝寺も、すべて焼けていた。白島には、家族をはじめ、知っている顔はひとりとしていなかった。   最勝寺の前で休んでいると、軍部のトラックがゆっくりと走ってきた。 「東 ...

ろくなもん【8】

2024/11/22   -none

    比治山は、標高七十メートルほどの小高い山である。丘と言ってもいい。 中腹まで登ったところで振り返ると、蟻が列を作ってぞろぞろと進むように、黒い影がふもとから連なっている。そ ...

ろくなもん【7】

2024/11/16   -none

    クボタが駆け出していった後、どうもその場を立ち去る気になれず、純は松商の生徒の身体をひとりずつ揺らした。「おい、おい」と、声をかけて回ったが、返事をする者は三人だけだった。 ...

ろくなもん【6】

2024/11/10   -none

    松商の生徒は、鶴見橋の西詰から百メートルほど南側にある倉庫まで集団で歩いた。   川沿いの風が心地良い。純はきらきらと光る川面を眺めた。水のにおいがする。向こう岸 ...

ろくなもん【5】

2024/11/05   -none

    純の家から鶴見橋まで、歩いて四十分ほどの距離であった。昨日まで通っていた東練兵場までの道のりの、凡そ倍の距離である。七時前に家を出た純は、左肩に弁当を入れた鞄をかけ、右手に ...

ろくなもん【4】

2024/11/01   -none

  比治山橋周辺での疎開作業がひと段落して、松商の生徒は東練兵場の開墾作業に従事することとなった。広島駅の北側に広がる広大な軍用地の一部を、サツマイモ畑にするという。市内各校から多くの生徒が ...

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