唐木俊介のブログ

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言うたった。

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ん?それ、おかしくないか?

 

 

と思うことがある。どう考えてもおかしい、自分はこう思う・・・そんな時は相手が誰であろうと、言った方がいい。

 

 

そんな時、正しいと思う自分の考えを、家族や友人には言いやすいかもしれないけれど、会社ではなかなか言いにくいものだ。先輩、上司、社長・・・立ちはだかる職級、権力の壁を目の前に、みんな言いたいことも言えないこんな世の中を嘆いて今日もあちらこちらでポイズンを歌っているのが実情だ。

 

 

そして今日も日本中の居酒屋で、

 

「あの表記がおかしいんだ。あそこに***なんて言葉を入れるからターゲットがボヤけるんだ」

「そうだそうだ!あのチームが考えたらいっつもこうなるんだ」

「俺はもう喉まで出かかったけど必死で堪えたよ」

「あいつら営業の現場のことが全然わかってないんだ」

「現場の意見聞かなきゃ何も始まらんだろ」

「だいたいウチの会社はよぉ」

 

という感じで、サラリーマン達は叫んでいるのだ。うむ。酒が入ると、また声が大きくなるんだよなぁ。

 

ただ、僕も含めて、居酒屋で熱くなっているサラリーマン達は、それを素面の時に、居酒屋ではなく会議室で、言うべき相手にしっかりと伝えた方がいい。居酒屋で叫んでも誰にも伝わらないし、何も変わらない。会議室で言えば何かが起こる。そしてそれは組織が大きく変化するキッカケになるかもしれない。

 

 

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何年前だったか、東京、東日本橋の居酒屋。営業マン7~8人でワイワイ。僕が最若手で、あとは皆3~10歳くらい年上の先輩ばかりだった。その日は製品の特長を示す販促POPの表記方法の話で盛り上がっていた。みんな上層部が決めた表記方法に反対なのだ。

 

「もう絶対におかしい!」

「直談判すべきだ!」

「でも相手が・・・」

「いや正しいもんは正しい!わかってもらえるだろ!」

「そうっすね!言った方がいいっすね!」

「よし、言おう!」

「オッケー、じゃあ俺が言うわ」

 

と、そこから、こういう時は俺が、いや俺が…と皆がリーダーシップに溢れる眼差しで我こそはと名乗り出た。収集がつかないその会話の終盤、最若手だった僕もイキった。

 

 

「それ、僕言いますわ。明日の朝礼で早速言うたりますわ!」

 

・・・と奮ったら、不思議なことに、ものすごくダチョウ倶楽部的に、

 

「おっ!威勢がいいね!よし、いいぞ!」

「おう、そうだ、オマエ言ってみろ!若手だし、案外聞いてもらえるかも」

「うん、そうっすね。コイツが言うのがいいかもしんないっすね!」

「よし」

 

なんと会話が収束してしまったではないか。えっ?そうなん?俺なん?まあええか、いっちょ言うたるか俺が。と、その日は帰った。

 

 

翌日の朝礼で、僕は最前列に座った。終盤「何かありますか?」のコーナーがやってきた。よし、今だ。言うたるぞ。僕は手を挙げた。上層部に対し、昨夜燃え盛った現場の意見をまとめ、それを大きな声で伝えた。

 

 

「来期展開する***のPOPの×××という表記は▲▲▲なので、〇〇〇に変えるべきだと思います」

 

 

よし、言うたったぞ。

 

 

 

 

 

と思ったのも束の間、

 

 

「はぁ?オマエ何をバカな事を言うとんじゃ?おぉ?」

 

 

偉い人の豪胆な一喝が飛んできた。想像以上の、凄い迫力で。

 

 

おぉ・・・?

 

 

お?

 

 

おお・・・。

 

 

 

・・・。

 

 

 

会議室に戦慄が走った。

 

 

 

ああ、黙っときゃよかったのか俺・・・会議室で言えば何かが起こる。たしかに。偉い人が怒った。言うてる場合か。いやしかし、言い出したからにはこんなところで折れるわけにはいかない。「それは***で***なので***なんです。だから***で・・・」…僕は抗った。ところがこの状況においてそんな末端の叫びなど届くはずもなく、僕はあえなく散って…しまうのは嫌だったので、最後に先輩たちの力を借りるべく「ここにいる人達も皆そう思ってるんですよ!ねえ」と呼びかけて後ろを振り向いた。

 

 

 

・・・時のあの静寂、何年経っても忘れない。地蔵が並んでいるのかと思った。居酒屋では大声血眼で主張を繰り広げていた先輩達は皆、ツルンとした表情で堅く口を閉ざし、俯いたまま微動だにしない。せっ、せんぱい・・・?・・・あ、あれ?これ、俺、やばくない???・・・とそこからは、現場の意見などどうでもよくなった。POPの表記なんか知らんわ。好きにせえよ。それより今だ。今この状況をどうする俺・・・。事件は会議室で起きていた。僕は視線を泳がせる。あっ、端っこに座っている先輩と目が合った!と思ったら、サッと下を向いて何かをメモする仕草…おい貴様、今この瞬間に何をメモする必要があるのだ。ぐぅぅ・・・と諦めて前を向けば偉い人は鬼の形相。あ、これは俺、詰んだわ。

 

 

 

そこから始まった偉い人の説教は段々とエスカレートしていって、最後に「オマエは何もわかっとらんのじゃ!バカモンっ!!」の一喝で僕ら(というか僕)はあえなく散って会議室の藻屑となったのだった。

 

 

 

朝礼が終わって持ち場に戻る時、バツが悪そうに僕を見る先輩に「ありゃないっすよ。なんすかあのダンマリは?」と言うと、

 

Aさん「いや、ホンマに言うと思わんかったし」

 

Bさん「まあ酒の席の話だし」

 

Cさん「・・・」

(↑おい、なんか言え!)

 

 

 

 

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いや、いいのだ。なんだかコントみたいじゃないか。吉本的にコケたくなるじゃないか。うん、振り返れば面白い一件だ。しかもこの一件でその先輩達とも強気でやりとりできるようになった(と勝手に思っている)し、絶対にあの日のあいつらみたいな大人にはならんぞ俺は・・・と心に決めることもできたわけで。まあ歳月が経ってみるとなかなか・・・

 

 

 

 

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という、僕の体験に近いケースに出くわした地元の後輩がウイスキー片手に嘆いていたのがつい先日のこと。

 

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「違うんすよ。それも全員で決めたのに、全部俺が言ったことになってたんすよ!ほんで呼ばれて説教ですわ。やってられませんよ。そのせいで俺は○×▲\ 予算だって×○▲* あいつらは*}$$◀◀@」

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聞けばよくある手の平返し・・・うむ、コントだな。まあまあ、どこの会社でもそういうことはあるだろうし、そんなの楽しんだ方がええで。むしろコントの主役になれたんだからラッキーじゃん。と言うと「ま、まあそりゃ、たしかに、ンハハ、ヌハハハ」と、後輩は竹中直人の"笑いながら怒る人"みたいになっている。それを見たマスターと僕に「ハハハ~まだまだ青いな~。顔は真っ赤だけど」なんて言われてもうプンプンしている。そこで僕は前述の体験談を話したのだった。

 

後輩は笑ったけれど、また元に戻って「いやいや、でも、ようそんなんスッとオモロいって思えますね~。俺だったらもう腹立ってたまらんすわ・・・」とブツブツこぼす。酒のせいか熱くなるばかりだ。やれやれ、いっちょ言うたるか・・・

 

「いやいや、そりゃ視点よ視点。ちょっと視点を変えるだけで、モノの見え方なんてガラッと変わるのよ」

 

よし、言うたったぞ・・・。

 

 

と思ったのも束の間、いや束の間じゃない。それを言う前から自分のエピソードを思い出してめっちゃ腹立ってたのは内緒だ。何年前とか関係ない。あの会議室、目が合ったのに下向いて何かをメモし始めた先輩のあの姿、そのメモの5億倍の筆圧で記憶に刻んでいるのも内緒だ。もう、思い出しただけで腹わた煮えくりかえる・・・のを後輩に隠すのが大変だった。いやいや、視点を変えろよ俺。振り返るとコントみたいで面白いじゃないか・・・うん、そうだな、ハハッ、ヌハハハハ・・・と、誰より自分が笑いながら怒る人になっていた。

 

 

 

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